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親族外承継の現実:従業員に継ぐか、外部に託すか。第三者承継という「新しいバトンタッチ」の形

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2026.09.02
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長年、血と汗と涙を流して育て上げてきた会社を、次の世代へどのように引き継ぐか。これは、日本の多くの中小企業経営者がいずれ必ず直面する、極めて重大かつ孤独な経営課題です。かつての日本社会においては、自分の子供や親族に会社を譲る「親族内承継」がごく当たり前の風景でした。しかし、少子高齢化が進み、個人の価値観やキャリア観が多様化した現代において、その選択肢は急速に狭まりつつあります。

「うちには跡継ぎがいないから、自分の代で会社をたたむしかないのだろうか」 「信頼できる右腕の従業員に会社を任せたいが、本当にそれがお互いにとって最善の選択なのだろうか」

このような深い悩みを抱えるオーナー経営者の間で、今、血縁関係にとらわれない「親族外承継」への関心がかつてないほど高まっています。本記事では、事業承継の最前線で起きている現実を紐解きながら、親族外承継の二大選択肢である「従業員承継」と「第三者承継(M&A)」について、実務的な視点とリアルな事例を交えて深く掘り下げて解説します。自社と従業員の未来をどのように切り拓くべきか、そのヒントをぜひ見つけてみてください。

なぜ今、中小企業の事業承継で「親族外承継」が選ばれるのか

帝国データバンクなどの様々な調査機関の報告を見ても、国内企業の過半数が後継者不在の状態にあるという深刻な現実が浮き彫りになっています。かつては「子どもに家業を継がせるのは親の務めであり、子どもの義務である」という社会的な風潮がありましたが、現代の子供世代にはそれぞれの人生やライフプランがあります。東京などの都市部で全く別のキャリアを築いている子供に対し、あえて厳しい経営環境にある家業を継ぐよう強要することはできないと考える経営者が増えているのです。

また、経営環境の急激な変化も親族内承継を躊躇させる大きな要因となっています。デジタル化(DX)の遅れ、慢性的な人手不足、原材料費や物価の高騰など、現代の中小企業経営はこれまでにないスピードで複雑化しています。次世代にプレッシャーの大きい経営のバトンを引き継ぐこと自体が、親心として忍びないと感じるケースも珍しくありません。

このような背景から、血縁者にこだわらず、事業を成長・存続させてくれる最適な人物や企業を求める「親族外承継」の重要性が増しています。親族外承継は大きく分けて、社内の主要な従業員や役員に引き継ぐ「従業員承継」と、M&Aを活用して外部の企業やファンドに託す「第三者承継」の二つに大別されます。経営者としては、それぞれの選択肢が持つ独自のメリットと、超えなければならない現実的なハードルを正しく理解しておく必要があります。

社内のエースに会社を託す「従業員承継」の光と影

多くのオーナー経営者が、親族以外への承継を考えた際に真っ先に検討するのが、長年苦楽を共にしてきた優秀な従業員や役員へのバトンタッチです。社内の事情を誰よりも熟知しており、顧客や取引先との関係もすでに構築されているため、業務の引き継ぎがスムーズに進むという大きなメリットがあります。何より、手塩にかけて育てた社員が社長に就任することは、現経営者にとっても心理的な安心感と喜びが大きいものです。

しかし、実務の最前線では、この従業員承継には特有の、そして非常に高いハードルが存在します。最大の障壁となって立ちはだかるのが「資金力」と「個人保証の引き継ぎ」という二つの重い壁です。

従業員承継における最大の壁「資金力」と「個人保証」

従業員がオーナー経営者から自社株式を買い取り、名実ともに経営権を握るためには、数千万円から時として数億円規模の莫大な資金が必要になります。長年勤め上げてきたとはいえ、一般的なサラリーマンである従業員が、これほどの株式取得資金を自己資金だけで用意することは極めて困難です。必然的に金融機関からの融資に頼ることになりますが、ここで経営者保証(個人保証)という非常に重い問題が生じます。

日本の中小企業の多くは、金融機関からの借入金に対して経営者個人の連帯保証がセットになっています。どれほど現場で優秀なリーダーシップを発揮している社員であっても、いざ自分が数億円規模の会社の借入金に対して、家族の生活も巻き込む個人保証を背負う覚悟を持てるかというと、話は全く別です。「仕事への情熱や人望はあるが、そこまでの金銭的なリスクは負いきれない」という切実な理由で、最終段階になって従業員承継が破談になるケースは決して珍しくありません。

経営者としての資質と社内ガバナンスの難しさ

さらに、優秀な現場のプレイヤーが、必ずしも会社全体を統統括する優秀な経営者になれるとは限らないというシビアな現実もあります。特に、強烈なカリスマ性を持つオーナー経営者の求心力に頼って成長してきた企業の場合、元同僚であった従業員が突然トップに立つことで、社内のパワーバランスが崩れる危険性があります。古参社員からの反発や、経営陣内部での派閥争いなど、新たな摩擦が生じるリスクも慎重に考慮しなければなりません。

外部の力を借りる「第三者承継(M&A)」という新たな選択肢

社内に適任な後継者が見当たらない、あるいは従業員承継の資金的・心理的ハードルが高すぎると判断した場合、最も有力かつ現実的な選択肢となるのが、M&A(企業の合併・買収)を活用した外部への「第三者承継」です。これは、自社の株式や事業そのものを、同じ業界でシナジーを見込める企業や、成長意欲の旺盛な異業種の企業などに引き継いでもらう方法です。

「M&A」や「買収」という言葉を聞くと、かつてのドラマやニュースの印象から、敵対的な乗っ取りやハゲタカファンドによる切り売りを想像して身構えてしまう経営者もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在の中小企業における事業承継型M&Aの大部分は、極めて友好的なパートナーシップの締結です。創業者と買い手企業が、互いの従業員と事業の未来のためにメリットを追求する、非常に前向きな「新しいバトンタッチの形」として定着しています。

第三者承継(M&A)がもたらす圧倒的なメリットと創業者利益

外部の優良企業への承継を選ぶ最大のメリットは、前述した従業員承継における資金とリスクの悩みを、一挙にクリアできる点にあります。買い手となる企業は通常、十分な資金力や強固な経営基盤を持っています。そのため、オーナー経営者は長年の努力の結晶である自社株式の対価として、適正な「創業者利益」を現金でしっかりと受け取ることができます。

また、長年経営者の肩に重くのしかかっていた借入金の個人保証についても、買い手企業の信用力によって借り換えが行われたり、親会社の保証に切り替えられたりするため、旧オーナーの個人保証が完全に解除されるのが一般的です。経営者は精神的な重圧から解放され、心からの安心を持ってリタイア後のセカンドライフを歩むことができます。

さらに、大企業や中堅グループの傘下に入ることにより、自社単独では資金的に難しかった最新設備の導入やデジタル化の推進、全国規模の販路拡大などを一気に加速させることが可能になります。「うちの規模と人材では、これ以上の成長は限界かもしれない」と感じている企業であっても、買い手の持つ豊富な経営資源と自社の技術や顧客基盤を掛け合わせることで、会社と従業員の未来の可能性を大きく広げることができるのです。

【実務事例】従業員承継から第三者承継(M&A)へ方針転換した老舗企業の決断

ここで、第三者承継によって事業の存続と成長を見事に実現した、地方の製造業A社のリアルな事例をご紹介します。

A社は従業員数約30名、特定の金属加工において非常に高い技術力を持ち、地元でも定評のある老舗企業でした。70代を迎えた創業者の社長は、長年現場を支え、苦楽を共にしてきた50代の工場長に会社を継いでもらおうと心に決めていました。社長から打診を受けた工場長も、初めは意気に感じて承諾し、承継へ向けた話し合いがスタートしました。

資金とプレッシャーの壁に直面した製造業のリアル

しかし、いざ具体的な手続きを進めようと税理士を交えて会社の純資産や株価を算定したところ、長年の黒字経営の蓄積により、株式の買い取りにはゆうに1億円以上の資金が必要であることが判明しました。当然、工場長にそれほどの貯蓄はなく、銀行融資を検討しましたが、A社が抱える既存の設備投資の借入金2億円に対する「個人保証」も工場長が引き継がなければならないという現実を突きつけられました。

この事実を知った工場長の奥様は、万が一会社が傾いた際に家族が路頭に迷うことを恐れ、社長就任に猛反対しました。工場長自身も深く悩み抜いた末に、「現場で技術を磨き、若い職人を育てる仕事は誰よりも好きですが、3億円もの負債と全従業員の人生を背負う経営トップになることは、精神的にどうしても耐えられません」と、涙ながらに本音を吐露し、社長への就任を辞退したのです。

第三者への譲渡で実現した従業員の幸せと創業者のハッピーリタイア

このままでは黒字のまま廃業(黒字倒産)になり、手塩にかけた従業員たちが職を失ってしまうと危惧した社長は、専門家のアドバイスを受け、大きな方向転換を決意します。従業員承継という当初のこだわりを捨て、A社の技術力を高く評価してくれる外部企業へのM&A(第三者承継)へと舵を切ったのです。

アドバイザーを通じてマッチングされたのは、全国展開を進めており、製造拠点の拡充を急いでいた同業の中堅グループ企業でした。トップ面談を通じて互いの経営理念に共鳴した両社は、とんとん拍子で話を進め、無事にM&Aが成約しました。

結果として、この決断はすべての関係者にとって最良のものとなりました。買い手企業はA社の職人たちの技術を高く評価し、全従業員の雇用をそのままの条件で維持しました。それどころか、大企業のグループに入ったことで福利厚生やコンプライアンス体制が整備され、従業員の労働環境は目に見えて向上しました。

創業者である社長は、適正な株式譲渡益を手にし、長年の個人保証からも解放されて、晴れやかな表情で勇退されました。そして何より、重圧から解放された工場長は、買収先から派遣された新しい経営陣の右腕として、純粋に現場のモノづくりと後進の育成に集中し、以前にも増して生き生きと働いています。

会社と従業員の未来を守るために、経営者が今すぐ取るべき行動

親族外承継を後悔のない形で成功させるために、経営者が心に刻むべき最も重要なことは、「いかに早く情報収集を始め、客観的な自社の立ち位置を把握するか」という点に尽きます。

「まだ気力も体力もあるから」「うちの会社なんて買いたい人などいないだろう」と決断を先延ばしにしているうちに、経営者自身の突然の体調不良や、外部環境の急激な悪化に見舞われ、取り得る選択肢が極端に制限されてしまうケースは枚挙にいとまがありません。選択肢が狭まった状態、いわば時間切れが迫った状態での事業承継は、足元を見られた不利な条件での交渉を強いられたり、最悪の場合は望まない形での廃業を選択せざるを得なくなったりする原因となります。

まずは、社内に有力な後継者候補がいる場合であっても、客観的な視点で「自社の企業価値(株価)は今どの程度あるのか」「従業員承継と第三者承継、どちらが自社の未来にとって現実的かつ最適なのか」を把握しておくことが不可欠です。

M&Aや事業承継の専門家に相談することは、決して「会社をすぐに売却する決定」を意味するものではありません。水面下で静かに情報を整理し、いざという時のための選択肢を複数持っておくことこそが、長年守り抜いてきた会社と、そこで働く従業員の未来を確実に繋ぐための「最大の防御策」なのです。

「つながり」では、中小企業経営者の皆様が抱える事業承継の不安や疑問に対し、豊富な実務経験に基づく現実的な解決策をご提案しています。自社のバトンタッチの形に少しでも迷いや不安を感じたら、手遅れになる前に、ぜひ一度私たち専門家の無料相談窓口へ扉を叩いてみてください。あなたの会社にとって最高のバトンタッチを、共に考え、伴走させていただきます。

<執筆:日坂 登紀広(中小企業診断士)>


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