「このまま自社単独で生き残れるか?」 物価高・人手不足の時代を乗り切る、中小企業の「仲間探し型M&A」
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物価高・人手不足の時代を乗り切る、中小企業の「仲間探し型M&A」
「売上はそこまで悪くない。でも、今後もこのまま一人で経営していけるのだろうか。」
最近、中小企業の経営者と話をしていると、そんな不安を耳にすることがあります。
原材料や仕入価格は上がる。人件費も上がる。求人を出してもなかなか人が集まらない。既存の取引先からは、これまで以上の品質やスピードを求められる。
一方で、大企業のように大規模な設備投資やシステム投資ができるわけでもありません。
これまでなら「自社で頑張る」という選択肢が当たり前だったかもしれません。しかし、経営環境が大きく変わる中では、「すべてを自社だけで解決する」という考え方そのものを見直す必要が出てきています。
そこで今後、中小企業のM&Aを考えるうえで一つのキーワードになるのが、**「仲間探し型M&A」**という考え方です。
会社を売るためのM&Aではなく、自社に足りないものを持っている会社と出会い、一緒になることで事業を強くするM&A。
そんな発想が、中小企業の経営にとって重要になってきています。
物価高と人手不足。「頑張るだけ」では解決できない問題が増えている
2026年版中小企業白書では、労働供給制約社会の到来に伴って、中小企業の人手不足がさらに深刻になる可能性が指摘されています。
また、持続的な賃上げのためには、その原資を確保する必要があり、価格転嫁や成長投資、事業承継・M&Aなどを通じて「稼ぐ力」を高めることが重要とされています。
これは、経営者にとって非常に現実的な問題です。
例えば、製造業なら「注文はあるのに人が足りない」。
建設業なら「仕事はあるけれど、現場を任せられる人材がいない」。
介護・福祉業なら「採用しても定着しない」。
飲食・サービス業なら「人件費と原材料費が上がって利益が残りにくい」。
つまり、単純に「もっと営業すれば売上が増える」という問題ではありません。
むしろ、仕事を増やす前に、仕事を支えられる人材や仕組みをどう確保するかが経営課題になっています。
こうした環境では、「自社だけで何とかする」という発想から一歩外に出てみることが必要になります。
「買収」ではなく「仲間探し」と考えるとM&Aの見え方が変わる
M&Aというと、「会社を買う」というイメージが先に来るかもしれません。
しかし、経営者の立場から見ると、必ずしも「会社そのものを買いたい」というわけではないケースがあります。
「経験のある人材がほしい」
「新しい地域に営業拠点を作りたい」
「自社にない技術を取り込みたい」
「既存事業と相性の良い顧客基盤がほしい」
「設備投資を単独で行うより、すでに設備を持っている会社と一緒になりたい」
こうした目的で相手企業を探していくと、M&Aは「会社を買う」というより、自社の経営課題を一緒に解決してくれる会社を探す活動に近くなります。
これが、ここでいう「仲間探し型M&A」です。
もちろん、最終的には株式譲渡や事業譲渡などの正式なM&Aになります。
ただ、最初の発想を「買収」ではなく「一緒に事業を伸ばせる相手を探す」と考えることで、候補先の見方は大きく変わってきます。
人手不足を「採用」だけで解決しようとしない
例えば、従業員20人ほどの製造業を考えてみましょう。
受注は安定しているものの、ベテラン社員の高齢化が進み、若手の採用も思うように進みません。
経営者は求人広告を出し、給与を上げ、採用活動にも力を入れてきました。
それでも人が集まらない。
こうした会社が、同じ地域にある同業の会社とM&Aをしたとします。
相手企業には、経験豊富な技術者がいます。
自社には営業力と顧客基盤があります。
一方の会社だけでは解決できなかった「人材不足」と「営業力」という問題が、組み合わせることで補完できる可能性があります。
もちろん、M&Aをすれば自動的に人手不足が解決するわけではありません。
従業員の処遇や役割、組織体制、仕事の進め方などを丁寧に調整する必要があります。
しかし、少なくとも「採用市場から一人ずつ人を探す」という方法だけではなく、すでに経験やノウハウを持っている組織と一緒になるという選択肢が生まれます。
これからの中小企業経営では、この視点がますます重要になっていくでしょう。
「売上」ではなく「足りないもの」から買収候補を考える
仲間探し型M&Aを検討するとき、最初に「売上規模」や「利益額」から相手を探す必要はありません。
むしろ、最初に考えてほしいのは、
「自社には何が足りないのか」
ということです。
例えば、自社に営業力があるのであれば、技術力のある会社が候補になるかもしれません。
反対に、技術には自信があるけれど販路が弱いのであれば、顧客基盤を持つ会社との組み合わせが考えられます。
人材が不足している会社なら、経験豊富な人材を抱える会社との組み合わせもあります。
地域展開を考えている会社なら、異なるエリアで強い顧客基盤を持つ会社とのM&Aも選択肢になります。
つまり、「良い会社を買う」のではなく、**「自社と組み合わせることで価値が生まれる会社を探す」**という考え方です。
この視点に立つと、M&Aの相手探しは、単純な企業規模の比較ではなくなります。
実際のM&Aでは「相性」が数字以上に重要になる
例えば、ある地域で長年営業している建設関連会社があったとします。
会社単体で見ると、売上規模はそれほど大きくありません。
しかし、地域の工務店や不動産会社などとの取引関係があり、経験豊富な社員もいます。
一方、買い手候補となる会社は、都市部で営業力を持っているものの、その地域にはまだ十分な顧客基盤がありません。
この2社が一緒になることで、買い手側には新しい地域への進出というメリットが生まれ、売り手側には営業・管理面の支援や将来の成長機会が生まれる可能性があります。
ここで大切なのは、「どちらの会社の方が優れているか」ではありません。
それぞれが持っているものが違うからこそ、一緒になる意味があるのです。
M&Aにおける「シナジー」という言葉も、こうしたところから生まれます。
仲間探し型M&Aで最初に確認したい「3つの相性」
とはいえ、「相性が良さそう」という感覚だけでM&Aを進めるのは危険です。
実務では、少なくとも「事業」「人」「経営」の3つの相性を考える必要があります。
まず事業面です。
顧客、商品、サービス、地域、設備、技術などを組み合わせたときに、本当にメリットがあるのか。
次に人です。
M&A後も一緒に働く従業員が、お互いの会社を受け入れられるのか。待遇や評価制度に大きな違いはないか。キーパーソンがM&A後も残ってくれるのか。
そして経営です。
経営者同士が、会社をどうしていきたいのかを共有できるのか。
特に最後の「経営の相性」は重要です。
数字上は魅力的な案件でも、経営方針が大きく異なれば、M&A後の統合で苦労する可能性があります。
中小企業庁も、M&Aでは成立後のPMI(経営統合)が重要であることを示しており、2026年版中小企業白書では、PMIに取り組んでいる企業の方が「想定を超える効果」や「想定した効果」を得ている割合が高いという分析も示されています。
つまり、「誰と一緒になるか」と同時に、「一緒になった後にどう経営するか」まで考えておく必要があります。
M&Aを「成長戦略」として考える経営者が増えている
M&Aは、後継者がいない会社の事業承継だけに使われるものではありません。
自社の事業を成長させるために、他社の経営資源を取り込むという使い方もあります。
2026年版中小企業白書では、M&Aを実施した企業について、買収先との経営方針や組織の統合などのPMIが成功のカギとなることが多いと整理されています。また、M&Aによる事業再編は、付加価値額を高める取組の一つとして位置付けられています。
「自社だけで売上を伸ばす」
「自社だけで人を採用する」
「自社だけで新しい地域へ進出する」
こうした方法に加えて、
「すでにその力を持っている会社と一緒になる」
という選択肢を持つことです。
これからの中小企業経営では、M&Aを「会社を買う特殊な手法」ではなく、経営資源を補い合うための選択肢として考える場面が増えていくでしょう。
ただし、「人手不足だから買う」だけではM&Aはうまくいかない
ここは経営者として注意しておきたいところです。
人手不足を解消したいからといって、従業員数だけを見て会社を買えばよいわけではありません。
M&A後にキーパーソンが退職してしまえば、期待していた人材を確保できない可能性があります。
また、会社文化や給与体系が大きく異なれば、統合後に従業員同士の摩擦が起こることもあります。
だからこそ、M&Aを検討する段階から「買収後」を考えておくことが大切です。
どの事業を残すのか。
誰にどの役割を任せるのか。
どこを統合し、どこは残すのか。
どんな会社にしていきたいのか。
M&Aは契約締結がゴールではありません。
その後、両社が一緒に働き始めてから、本当の意味でM&Aの成果が問われます。中小企業庁も、中小M&AにおけるPMIの重要性を踏まえ、ガイドラインや実践ツールを整備しています。
「このまま自社単独で」という発想を一度外してみる
中小企業の経営者にとって、「自分の会社は自分で守る」という気持ちは非常に自然なものです。
これまで何十年も、自分自身の判断と努力で会社を育ててきたのですから、簡単に他社との統合を考えられないのも当然です。
ただ、経営環境が変われば、経営の方法も変わります。
物価高、人手不足、後継者問題、設備投資負担、デジタル化への対応。
一社だけでは解決に時間がかかる問題でも、他社と組むことで解決への道筋が見えてくることがあります。
「会社を売るか、売らないか」という二択ではなく、
「これから会社を続けるために、どんな会社と組めるだろうか」
と考えてみる。
それが、仲間探し型M&Aの出発点です。
まとめ|M&Aは「会社を手放す」だけではなく「会社を強くする」ためにも使える
M&Aというと、どうしても「後継者がいない会社を誰かに売る」というイメージが先行します。
しかし、M&Aにはもう一つの側面があります。
それは、自社に足りない経営資源を、他社との組み合わせによって補うことです。
人材、顧客、技術、設備、地域、ノウハウ。
自社だけで一から築こうとすれば、何年もかかるものを、M&Aによって取り込める可能性があります。
もちろん、すべての会社にM&Aが必要なわけではありません。自社単独で成長できる会社もあれば、業務改善や採用、設備投資など、M&A以外の方法が適しているケースもあります。
大切なのは、最初から「M&Aをする」と決めることではありません。
「自社単独で解決する」という選択肢以外にも、会社を強くする方法があることを知っておくこと。
そのうえで、自社に何が足りないのか、どんな会社と組めば事業がもっと強くなるのかを考えてみる。
M&Aを「会社を売るための手段」から、「会社を次のステージへ進めるための出会い」と捉え直す。
物価高や人手不足が続く今だからこそ、そんなM&Aの使い方を考えてみてもよいのではないでしょうか。
<執筆:代表取締役 日坂 登紀広(中小企業診断士)>
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