廃業かM&Aか:後継者不在企業の判断基準とは
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- コラム
はじめに:迫られる選択、企業の命運を分ける決断
後継者不在という現実に直面したとき、多くの中小企業経営者が「このまま廃業するか、それともM&Aを通じて会社を存続させるか」という重大な決断を迫られます。日本では年間4万社以上が黒字にもかかわらず廃業しているという統計もあり、事業承継は個々の企業の問題を超えて、経済全体の課題とも言えます。
一方で、M&Aによって企業の存続だけでなく、成長や雇用維持を実現する成功事例も増えています。本稿では、後継者不在の中小企業が廃業かM&Aかを判断する際の基準と、それぞれのメリット・デメリット、そして最適な選択をするためのポイントについて、できる限り詳しく解説します。
第1章:なぜ今、後継者不在が深刻なのか
1. 高齢化の加速
日本の中小企業経営者の平均年齢は60歳を超え、団塊世代の引退期を迎えています。60代後半〜70代でいまだ現役というケースも多く、いつ経営不能になるかわからない状況が広がっています。
2. 親族承継の減少
以前は当然とされていた親族への事業承継も、近年では子どもが継ぎたがらない、または他のキャリアを選ぶケースが増加しています。結果として後継者未定のまま高齢になり、突然の病気や事故によって事業継続が困難になるリスクが高まっています。
3. 社内承継の難しさ
幹部や社員への承継を希望しても、経営者としての資質や資金的な問題で実現できないことも多く、最終的にM&Aか廃業かの選択に直面することになります。
第2章:廃業を選択する場合のメリットとリスク
メリット
自分のタイミングで業務を終了できる
会社の責任から完全に離れられる
精神的な負担が軽減される
デメリット
雇用の喪失、従業員や取引先への影響
資産や知的財産、ブランドの喪失
黒字企業でも清算コストが発生
顧客・地域からの信用・信頼の喪失
中には「自分が辞めたら会社も終わりでいい」と考える経営者もいますが、長年築いてきた事業をゼロにしてしまうのは、実にもったいない選択でもあります。
第3章:M&Aという選択肢の現実と利点
1. 第三者承継の一形態としてのM&A
M&Aは単なる“会社の売却”ではなく、“次の経営者へのバトンタッチ”であり、会社の未来を託す手段です。中小企業でも近年活発化しており、2020年代に入ってからは年間数千件の中小企業M&Aが成立しています。
2. M&Aの主なメリット
企業価値の現金化(リタイア資金の確保)
雇用や取引の継続(従業員の生活を守る)
ブランドや技術の継承(創業者の想いの継続)
経営資源の再活用(買い手の支援による再成長)
3. 成功のためのカギ
財務・労務・法務面の整理(デューデリジェンス対策)
企業の強みを明確化(魅力的な譲渡案件化)
アドバイザーや仲介会社の適切な選定
後継者・買い手との信頼構築
第4章:判断基準は「企業の将来性」と「経営者の意思」
1. 企業の将来性を見極める
以下の要素が備わっている場合、M&Aの成功可能性が高いとされます:
一定の売上や利益を継続している
地域や業界での独自性がある
人材・顧客が定着している
資産・技術・ブランドが存在する
こうした“譲渡価値”のある企業は、M&A市場でも注目されやすく、選択肢も広がります。
2. 経営者自身の価値観と将来設計
「会社を続けてほしい」という想いがあるか?
「従業員の雇用を守りたい」と考えているか?
「創業者としての価値を残したい」と思うか?
これらにYesと答えるのであれば、廃業よりもM&Aの検討が理にかなっています。
第5章:判断を誤らないために必要なステップ
1. 早めに情報を集める
M&A支援機関、中小企業診断士、商工会議所などで情報収集を開始することが肝要です。
2. 無料診断・企業価値評価の活用
企業価値の簡易査定や、承継診断などの無料サービスを利用することで、今後の方向性が見えてきます。
3. 社内・家族との相談
利害関係者への事前相談は、摩擦を避けるだけでなく、信頼関係を築くうえで不可欠です。
4. プロによる伴走支援
M&Aアドバイザー、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)などのプロの力を借りることで、感情と論理を切り分けた冷静な判断ができます。
おわりに:経営者として最後の意思決定を「戦略」に変える
廃業か、M&Aか──。それは単なる“出口戦略”ではなく、“未来を誰に託すか”という経営者としての最後の大きな意思決定です。会社が築いてきた価値を守り、従業員や顧客に感謝を込めてバトンを渡す。その方法として、M&Aは決して「売り渡す」という否定的な行為ではなく、「未来への橋渡し」であるという視点が重要です。
中小企業の経営者にとって、最も価値ある選択は「継がせること」であり、「残すこと」。そのためには、早期の判断と準備こそが何よりの戦略です。