60代経営者が考えるべき事業承継の準備とM&Aの選択肢
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- コラム
はじめに:経営者人生の最終章に向けて
60代に差しかかった経営者にとって、事業承継は避けて通れないテーマです。多くの中小企業では、創業者が現役で第一線に立ち続けており、引退のタイミングや後継者の確保について具体的な計画を持たないケースが少なくありません。しかし、高齢化や健康上の不安、市場環境の急変など、予測不能なリスクが年々高まるなかで、事業承継は“先送り”ではなく“戦略的に備えるべき経営課題”として位置づける必要があります。
本稿では、60代の中小企業経営者が意識すべき事業承継の準備と、近年注目されるM&Aという選択肢について、多面的に解説します。
第1章:60代経営者の現状と承継準備の遅れ
1. 経営者年齢の実態
中小企業庁のデータによれば、全国の中小企業経営者の平均年齢はおよそ60歳を超えています。特に地方企業や老舗企業では、70代、80代でも現役を続けるケースも珍しくありません。
2. 準備不足が招くリスク
事業承継の準備が整っていないまま経営者が急病や事故などで離脱した場合、企業は経営空白、取引停止、金融支援の停止、従業員の動揺といった深刻なダメージを受けます。実際、後継者不在により黒字にもかかわらず廃業を余儀なくされる“黒字廃業”は年間数万社にのぼっています。
第2章:事業承継に向けた3つの準備ステップ
1. 経営体制・情報の見える化
財務諸表や契約書、従業員情報、取引先との関係などを整理
「誰が、何を、どこで、どうやって」経営しているのかを可視化
2. 事業の価値と将来性の棚卸し
自社の強み・収益構造・成長可能性の分析
弱みやリスク要因を洗い出し、改善プランを立案
3. 後継者候補の検討と育成
社内に後継候補がいる場合は、早期に育成計画を策定
親族や幹部が不在の場合は、外部への承継(M&A)を視野に入れる
第3章:M&Aという選択肢を現実的に考える
1. M&Aは「売却」ではなく「承継」
M&Aというと、“会社を売る”というネガティブなイメージを持つ経営者もいます。しかし、M&Aは会社の存続と発展、雇用の維持、取引先との関係継続を可能にする“第三者承継”の一形態です。中小企業庁も後継者不在対策として第三者承継を強く推奨しています。
2. M&Aのプロセスと期間
アドバイザー選定 → 企業評価(バリュエーション) → 買い手候補とのマッチング → デューデリジェンス(買収監査) → 契約交渉 → クロージング
平均して半年〜1年程度の期間が必要
3. M&Aのメリット
信頼できる企業や経営者にバトンを託せる
自社ブランドや社員を守れる
経営者自身の引退後の生活資金や新たな挑戦資金を得られる
第4章:どのような企業がM&Aに向いているのか?
業績が安定し、一定の利益水準を確保している
ニッチな技術や地域での高いシェアを有している
事業継続に必要な人材が残っている
業界トレンドに合致している(例:IT化、環境対応、医療・介護など)
こうした特徴を持つ企業は、M&A市場でも評価されやすく、スムーズな承継が可能です。
第5章:60代で事業承継に動き出すメリット
選択肢の幅が広がる:
時間的余裕があるため、理想的な後継者や買い手と出会える可能性が高まる
段階的な引継ぎが可能:
一度にすべてを手放すのではなく、数年かけて引継ぎ・顧問就任など柔軟な移行ができる
事業磨き上げの期間が持てる:
企業価値を高めてからM&Aに臨むことで、好条件の譲渡が可能になる
おわりに:早めの準備が「理想の承継」を実現する
60代の経営者にとって、事業承継は“いつか考えること”ではなく“今から考えるべき経営課題”です。家族内承継か、社内承継か、M&Aによる第三者承継か──その答えは企業ごとに異なりますが、共通して必要なのは「準備」と「選択肢の確保」です。
事業承継は、企業の存続を左右するだけでなく、社員や地域社会、そして経営者自身の人生設計にも深く関わる問題です。60代という節目の時期だからこそ、冷静な判断と具体的な行動が、次世代への円滑なバトンタッチを実現します。