建設業におけるM&A:職人不足をどう解消するか ― 人手不足時代における“承継と成長”の現実解 ―
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はじめに:建設業の最大課題は「仕事」ではなく「人」
建設業界では、公共工事・民間工事ともに一定の需要がある一方で、深刻な職人不足が業界全体の成長を阻害しています。
・技能者の高齢化
・若年層の入職減少
・技術継承の断絶
・下請構造の弱体化
こうした構造的問題に対し、M&Aは「事業承継」だけでなく、人材確保と技能継承を同時に実現する手段として注目されています。
第1章:建設業における職人不足の構造的背景
1. 技能者の高齢化と大量引退
国交省データでも、建設技能者の約3割が55歳以上と言われています。
今後10年で大量引退が進む一方、若手の供給は追いついていません。
この結果、
・現場を回せない
・受注を断らざるを得ない
・技術が属人化して継承できない
という悪循環が生まれています。
2. 若手が定着しにくい業界構造
・長時間労働
・天候リスク
・キャリアパスの不透明さ
これらが若年層離れを加速させています。
人を育てたくても「育つ前に辞めてしまう」という悩みは、多くの経営者に共通しています。
3. 地域・専門工種による偏在
・地方ほど人材確保が難しい
・特定工種(型枠・左官・設備など)に人が集まらない
結果として、
仕事はあるのに施工体制が組めない状況が常態化しています。
第2章:なぜ建設業でM&Aが有効なのか
1. 「人」をまとめて承継できる
建設業の最大の価値は、
・技能者
・現場管理者
・協力会社ネットワーク
です。
M&Aでは、人材・技術・関係性を“そのまま引き継ぐ”ことができ、単なる採用よりも即効性があります。
2. 技能と許認可を同時に取得できる
・建設業許可
・経営事項審査(経審)
・指名参加資格
これらは一朝一夕では取得できません。
M&Aにより、許認可+人材+実績を同時に得られる点は大きなメリットです。
3. 元請・下請関係の安定化
人手不足の下請企業を承継することで、
・自社施工比率の向上
・外注コストの安定
・現場管理の一体化
が可能になります。
第3章:職人不足解消に向けたM&Aの具体的活用パターン
1. 同業・同工種の買収
・同じ工種の中小企業を承継
・職人・現場管理者を確保
・技能の横断的共有が可能
即戦力の確保という点で、最も王道のパターンです。
2. 補完工種の取り込み(垂直統合)
・土木 × 設備
・建築 × 内装
・元請 × 専門工事業
これにより、
・現場調整力向上
・外注依存の軽減
・工期短縮
が実現します。
3. 地方企業の承継によるエリア拡大
地方の後継者不在企業を承継し、
・人材を維持
・地域拠点を確保
・地元採用の基盤を残す
地域密着型M&Aは、職人不足対策と地方創生を両立させます。
第4章:建設業M&Aで注意すべき実務ポイント
1. 「人が残るか」が最大のデューデリジェンス
建設業M&Aでは、財務よりも人材DDが重要です。
・誰が中核技能者か
・年齢構成・技能レベル
・離職リスク
を事前に把握する必要があります。
2. 処遇・評価制度の調整
・日当制と月給制
・職人評価の基準
・安全管理体制
統合後の不満が出やすいため、段階的な制度統合が望まれます。
3. 現場文化・安全意識の違い
建設業では、
・安全ルール
・現場の慣習
の違いが事故やトラブルにつながりやすい。
PMI初期に、安全文化の統一を最優先事項とすべきです。
第5章:M&Aを成功させるための人材定着施策
1. 技能者への丁寧な説明と対話
・仕事は減らないか
・給与はどうなるのか
・現場は変わるのか
不安を放置せず、経営者自身の言葉で説明することが重要です。
2. 技能継承の仕組み化
・ベテラン × 若手のペア制
・多能工化
・技能の見える化
承継企業の技術を“属人化させない”仕組みづくりが、長期的な人材不足解消につながります。
3. 働き方改革との両立
・週休二日制対応
・ICT施工
・現場管理の省力化
M&Aを機に、「選ばれる建設会社」への転換を図ることが重要です。
おわりに:M&Aは「人を買う」のではなく「人を守る」選択
建設業におけるM&Aの本質は、単なる規模拡大ではありません。
・技能を守る
・雇用を守る
・地域のインフラを守る
そのための現実的な手段が、M&Aです。
職人不足という避けられない課題に対し、M&Aを「守り」と「攻め」の両面で活用できるかどうかが、今後の建設業経営を大きく左右します。
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