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コラム

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社員への説明はどうする?M&A後のコミュニケーション戦略

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2025.05.13
  • コラム

~情報の「伝え方」が統合の成否を分ける~


【はじめに】M&Aにおける「沈黙」はリスクである

 企業がM&A(合併・買収)を実行する際、法務・財務・税務の専門家を交えて事前準備を整えるのは当然のプロセスですが、実は多くの企業で軽視されがちな要素があります。それが、「社員への説明=コミュニケーション戦略」です。

 M&A後の統合プロセス(PMI:Post-Merger Integration)は、単なる制度・システムの統一ではありません。それは、異なる背景を持つ人と人の融合であり、情報と感情のマネジメントが鍵を握ります。とりわけ、中小企業では「顔が見える関係」「経営者との信頼関係」が業務を支えていることも多く、社員への説明が遅れたり不十分だったりすれば、不信感や混乱が急速に組織を蝕むことになります。

 本稿では、M&Aの実行後から中長期統合期にかけて、「社員にどのように何を伝えるべきか」「どのように巻き込むべきか」といった実践的視点から、コミュニケーション戦略を徹底的に掘り下げていきます。


【第1章】なぜM&A後の社員説明が重要なのか?

1. 社員は“当事者”である

 M&Aは経営層の決定事項である一方で、現場で働く社員にとっては生活や働き方が変わるかもしれない重大なイベントです。給与、勤務地、ポジション、人間関係など、日々の安心感を脅かされる可能性があるため、「説明されない」こと自体がストレスや不信を生みます。

2. 情報の“空白”は、誤解と憶測で埋められる

 正式な情報提供が遅れると、社員の間で噂や誤解が急速に拡散します。特に中小企業やローカル企業では、人のつながりが強いため、非公式な会話の影響が大きく、統制が困難になります。

3. 信頼関係の崩壊は、離職やモチベーション低下に直結

 「どうせ買収された身」「この会社の未来が見えない」といった感情が蔓延すると、キーパーソンの流出、業績悪化、PMIの失敗という悪循環に繋がりかねません。


【第2章】社員の立場から見たM&Aの“リアルな不安”

 M&A後、社員が最も気にしているのは次のような項目です

雇用:解雇されるのではないか/待遇は変わるのか
人事:上司は誰になるのか/異動はあるのか
業務:業務プロセスは変わるのか/新しいルールに対応できるか
経営方針:ビジョンや価値観はどうなるのか/社名は変わるのか
評価制度:成果はどう評価されるのか/昇進に影響するのか

【第3章】コミュニケーション戦略の基本方針

1. 「何を伝えるか」だけでなく「どう伝えるか」が重要

 情報の正確性だけでなく、誰がどんな姿勢で、どのような言葉を選んで伝えるかが、社員の受け止め方に大きく影響します。

2. 発表は“早すぎず遅すぎず”、誠実なタイミングで

 正式発表前に情報が漏れると混乱を招きますが、発表が遅すぎても疑念が募ります。経営判断としての発表タイミングは、徹底した準備とセットでなければなりません。

3. 双方向の姿勢を持つ

 説明は一方通行ではなく、社員の声を聞く姿勢が不可欠です。質問に答える機会、意見を受け止める場を設けることで信頼が醸成されます。


【第4章】フェーズ別:具体的コミュニケーション施策

 フェーズ1:M&A発表直後(0〜1ヶ月)

・経営陣からのメッセージ発信(社内文書・説明会)

 統合の背景・目的・方針・社員への影響の有無を明確に説明

・全社員説明会の開催(対面 or オンライン)

 トップ自らが登壇し、感謝と未来への展望を語る

・FAQ資料の配布

 想定される質問への答えを事前に整理(待遇、部署変更、社名、制度など)

・直属の上司からの個別フォロー

 現場での疑問や不安は上司を通じて吸収・対応

 フェーズ2:移行期間(2〜6ヶ月)

・定期的な情報発信(「統合通信」など)

 統合の進捗や経営陣のコメントを継続的に発信

・小規模チーム単位の意見交換会(タウンホール形式)

 不満や違和感を口に出せる安全な空間を用意

・人事制度や評価基準の説明会

 変更点がある場合は徹底的に解説し、不安の払拭を図る

 フェーズ3:統合定着期(6ヶ月以降)

・「新しい企業文化」を共同でつくる場の創出

 価値観の再定義、ミッション・ビジョンの再構築

・表彰制度や社内イベントの導入

 モチベーション向上と帰属意識の強化

・社内アンケートとフィードバックの制度化

 双方向の関係を継続し、改善に反映


【第5章】中小企業における注意点と成功の鍵

経営者の「顔」と「言葉」が最も影響する

 中小企業では、社長=会社という意識が強く、社長の言葉や姿勢が社員の安心感を左右します。誠実な態度で語ることが何より重要です。

「買収された側」という空気に注意

 社員の中には「我々は吸収された」「主導権を握られた」という心理が生じがちです。統合は上下ではなく“対等なパートナーシップ”であることを繰り返し強調しましょう。

家族的な文化や長年の慣習に対する配慮

 「郷に入れば郷に従え」というスタンスの押し付けは反発を招きます。旧来の良さを尊重しながら、新たな共通基盤を一緒につくるという姿勢が大切です。


【まとめ】M&Aの本当の勝負は「伝え方」にある

 M&Aの成功とは、単に法的手続きを完了させることではありません。真の成功は、社員が「ここで働き続けたい」「この会社の未来に希望が持てる」と感じられるかどうかにかかっています。

 そして、それを可能にするのが、誠実でタイムリー、かつ双方向的なコミュニケーションです。情報の質、量、タイミング、そして“温度”——これらすべてに配慮した説明と対話こそが、統合の混乱を最小限に抑え、ポストM&Aの成長を実現する最大の武器となるのです。

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