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売却側が準備すべき書類と情報整理のポイント ~M&Aを成功に導く「見せる化」と「整える力」~

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2025.07.03
  • コラム

はじめに:情報の整備は「信頼の土台」である

 中小企業にとってM&Aは、単なる企業売却ではなく、「事業のバトンを渡す」極めて戦略的な行為です。そして、このバトンがスムーズに、そして適切な評価で受け取られるためには、買い手に対して自社の価値を正しく伝える準備が必要です。

 なかでも重要なのが、書類の整備と情報の整理です。M&Aプロセスにおいて、買い手が実施する「デューデリジェンス(DD)」では、財務、税務、法務、労務などあらゆる角度から企業が精査されます。資料が不足していたり、内容に不備があったりすれば、取引価格に影響を与えるだけでなく、M&A自体が中断・破談するケースも珍しくありません。

 本コラムでは、売却を検討する中小企業経営者が事前に準備すべき書類や情報、そしてそれを整理・整備する際のポイントを、実務に即した形で詳しく解説します。

第1章:M&Aで求められる書類の全体像

 売却における書類準備は、単に「形式的な整備」ではありません。それは、自社の魅力とリスクの全体像を第三者に示す「企業の説明責任」であり、透明性と信頼性を高めるプロセスです。

1. 財務関連資料(経営の健全性を示す)

過去3~5期の決算書(B/S・P/L・C/F)
月次試算表(直近数ヶ月分)
勘定科目内訳明細書
固定資産台帳
借入金・リース契約の明細
売掛・買掛金の管理状況
売上の内訳(得意先別・商品別)

実務ポイント:
・過去の赤字や特異な費用には説明メモを付け、将来的な再現性のある利益かどうかを明確に。
・可能であれば税理士による「正規の監査」やレビュー意見も用意すると信頼性が増す。

2. 税務関連資料(潜在リスクの把握)

法人税・消費税・地方税の申告書
納税証明書(滞納がないことの確認)
税務調査記録・指摘事項の履歴
節税対策のスキーム説明資料

実務ポイント:
・過去の税務調査で指摘があった内容は、買い手に事前開示するのが原則。隠すと信頼を失います。
・実態との乖離がないよう、売上計上のタイミングなど会計方針にも一貫性を。

3. 法務関連資料(権利関係の明確化)

定款・登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
株主名簿・株式譲渡制限の有無
各種契約書(売買、業務提携、リースなど)
訴訟・係争中の案件(概要と経緯)
許認可・免許証(業種により必要)

実務ポイント:
・古い契約書や不明確な取決めは、なるべく早期に更新・明文化。
・知的財産(特許・商標)についても登録状況を明記しておく。

4. 労務・人事関連資料(人材の健全性と再現性)

労働契約書(社員全員分)
就業規則・給与規定・評価制度
人員構成表(正社員・パート別、役職別)
残業・勤怠管理データ
社会保険・雇用保険加入状況

実務ポイント:
・従業員との未解決のトラブルがあれば、その内容を把握し記録しておく。
・就業規則が未整備の場合は、社労士の支援を受けて早急に整備。

5. 業務・営業関連資料(収益構造を理解させる)

主要取引先一覧(売上比率つき)
仕入先・外注先の一覧
商品・サービスの一覧と特徴
顧客属性の分析データ
市場シェアや競合比較資料

実務ポイント:
・一社依存の傾向が強い場合は、そのリスクをどう緩和しているかを整理。
・「商談が個人に依存していないか(属人性)」のチェックも必要。

第2章:情報整理の実務ステップと注意点

ステップ1:書類リストの作成と進捗管理

 まずは、M&Aアドバイザーが提示する「必要書類リスト」に基づき、自社の保管状況を棚卸しします。不足資料や更新が必要な資料については、スケジュールを決めて担当者を割り当てましょう。

ステップ2:ファイルのデジタル化

 紙のままでは情報共有が非効率なうえ、紛失のリスクもあります。PDF化し、カテゴリー別フォルダを構築することで、バーチャルデータルーム(VDR)などでの共有にもスムーズに対応可能です。

ステップ3:データと説明の一致

 書類そのものだけでなく、「補足説明」や「背景情報」をテキストで添えることが大切です。買い手は“数字の裏”を知りたがります。たとえば特定の売上が急増している理由、利益が出ていない事業の将来性などを明示的に。

第3章:整理された情報がもたらす3つの効果

1. 買い手の安心感と信頼感を高める

 「見える化」された企業情報は、買い手にとって“安心材料”となります。必要な情報が揃っていない企業は、それだけで「リスクがある」と判断され、価格が下がったり、検討から外されたりする可能性があります。

2. デューデリジェンスが円滑に進む

 資料が整っていれば、買い手側のデューデリジェンス(精査)作業が短期間で終わり、交渉全体がスピードアップします。また、情報開示がスムーズであれば、交渉中の信頼関係も強化され、条件面での柔軟な対応も期待できます。

3. 売却価格にプラス影響を与える

 「整っている会社」は、それだけで「経営管理が行き届いている」と評価され、企業価値の上昇につながります。逆に、不備の多い企業は、値下げ交渉の対象となるリスクが高まります。

おわりに:M&A成功は、準備で8割が決まる

 企業を売るということは、買い手にとっては「未来を買う」ことです。その未来像を信じてもらうには、資料と情報が整っていなければなりません。M&Aは「相場」ではなく、「信頼」で価格が決まる取引です。

 だからこそ、売り手が自社を客観的に見つめ、透明性のある情報開示と的確な資料準備を進めることが、結果的に最良の買い手を引き寄せ、納得のいく売却を実現する近道となります。

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