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コラム

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中小企業の買収で見落としがちな人的資産の評価方法

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2025.08.05
  • コラム

〜「人」を見ずしてM&Aは語れない〜

はじめに:M&Aの成否は「人」にかかっている

 M&Aを語る際、売上・利益・資産・負債・契約関係といった「数字」や「目に見えるモノ」の分析に焦点が当たることがほとんどです。しかし、実際のM&Aにおいて買収後の成功・失敗を大きく左右するのは、そうした財務指標だけではなく、「人」に関わる要素、すなわち人的資産です。

 特に中小企業のM&Aでは、経営者やキーマン従業員に大きく依存しているケースが多く、人的資産を正しく見極めることができなければ、せっかくの買収も「絵に描いた餅」になりかねません。

 本コラムでは、中小企業の買収において見落とされがちな人的資産とは何か、その評価方法、注意点、活用戦略について、実践的な視点から詳しく解説します。

第1章:中小企業における人的資産とは何か?

 「人的資産」とは単なる人員数ではなく、次のような組織の知識・ノウハウ・経験・関係性・価値観を含む“無形資源”です。

1. 経営者の人脈・信用・判断力

顧客・取引先・金融機関・地域コミュニティとの信頼関係
現場で培った意思決定力やリーダーシップ
オーナー経営者の「顔」が会社のブランドになっていることも

2. キーマン人材(No.2社員、職人、店長など)

業務遂行の中核を担う人物(属人的技術を持つ社員など)
顧客とのパイプ役、業務の実務管理者として不可欠な存在
暗黙知を多く保有していることが多い

3. 組織風土・価値観・社風

安定した人間関係が構築されているか
チームワークの有無
会社の理念や働く目的への共感度

4. 従業員スキル・教育体制

現場での技術・接客スキル
OJTの仕組みやマニュアルの有無
ベテランと若手のバランス

5. 離職率・従業員定着性

長年勤続している社員の比率
社内の人間関係の健全性
労働環境への満足度(残業、給与、待遇、福利厚生)

第2章:人的資産の評価がなぜ見落とされるのか?

 中小企業M&Aにおいて人的資産の評価が不十分になりがちな背景には、次のような事情があります。

1. 財務デューデリジェンスに偏りすぎている

 買収の現場では、税理士や会計士を中心とした財務面の精査に重点が置かれやすく、現場の人材状況が「数値化できないから」として軽視されがちです。

2. 文書化されていない属人的な知識が多い

 中小企業では業務マニュアルが存在しないことも多く、キーマンが頭の中だけで業務を回しているため、その知識やノウハウが可視化されていません。

3. 買収前に従業員との接触が困難

 機密保持の観点から、買収検討段階では従業員にM&Aの話が伝えられないことが多く、「人」の実態が買収前には把握しづらいという制約もあります。

第3章:人的資産を評価するための5つの実践的アプローチ

1. 役員・キーマンのヒアリング(経営者との信頼構築を通じて)

 買収対象企業の経営者に対して、次のような観点でヒアリングを行いましょう:

「誰が会社を動かしているのか」
「辞められたら困る人材は誰か」
「現場を任せられる人物は誰か」

 可能であれば、経営者に同席してもらいキーマンと非公式に面談することも有効です。

2. 従業員リスト・給与情報・職務内容の確認

在籍年数、年齢、職種別の構成
賃金水準と職務との整合性
昇給履歴・賞与支給実績から、従業員のモチベーションや待遇満足度を推定

 これらの情報から、将来の人件費負担や離職リスクを把握します。

3. 離職率と採用履歴の分析

過去3〜5年の退職者数・理由
新卒採用/中途採用の比率
採用難易度や定着率の状況

 人材の流動性が高すぎる場合、社内の不満やマネジメント不全の兆候である可能性があります。

4. 評価制度・教育体制の確認

人事評価制度の有無と実態
昇格・昇給の透明性
教育訓練の体制(マニュアル・OJT・研修など)

 仕組みとして人材育成が機能している企業は、買収後の安定成長が期待できます

5. オーナーの事業関与度・現場依存度の確認

経営者が日常業務にどれだけ関わっているか
社長がいなくなったら業務が止まるリスクの有無
「一人会社」状態になっていないか

 属人化が強すぎる企業は、買収後のPMIで計画的な移行支援が必要です。

第4章:人的資産を活かすための買収後戦略(PMIの視点)

 人的資産は、買収時点で「評価」して終わりではなく、買収後にどう「活用」し、定着させ、強化するかが重要です。

1. 信頼形成のための「顔の見える」コミュニケーション

買収直後は、経営者や幹部が現場を訪問し、対話を重視したオープンな姿勢を示す
「何も変えない」「安心して働いてほしい」と伝えることで、心理的不安を軽減

2. キーマンとの個別対応・処遇維持

業務継続に不可欠な人材には、退職防止のための処遇見直しや職責の維持を検討
待遇面の不公平がないか確認し、適正化を図る

3. ノウハウの可視化と継承

キーマンの知識や業務プロセスをマニュアル化・見える化する
将来の世代交代に備え、人材育成プランを整備

おわりに:「人を見る力」こそが中小企業M&Aの要

 中小企業M&Aは、数値だけでは判断できない複雑な要素を含んでいます。その中でも最も重要かつ見落とされがちなのが「人的資産」の評価と活用です。

 買収時には、売上や利益といった数値では測れない、“人の価値”をどう評価するかが成否を分けます。そして買収後は、その価値をいかに守り、伸ばし、次の世代へつなげていくかが問われます。

 中小企業のM&Aでは、**「人を見ずして企業を見るなかれ」**という視点を常に持つことが、買収の真の成功につながるのです。

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