お電話でのお問い合わせ

06-7178-0457

【受付時間】9:00~18:00

お問い合わせ

住所:
〒541-0054
大阪府大阪市中央区南本町2-3-12 エッジ本町3階

アクセス:
地下鉄 堺筋線・中央線 / 堺筋本町駅 徒歩1分

見出しの画像

コラム

column

売却後も会社に残る?それとも綺麗に引退する?オーナー経営者のための「ハッピーリタイアメント」設計図

news

2026.10.19
  • お知らせ
  • コラム

「会社を譲渡した後も、しばらくは経営に携わりたい」
「できれば売却を機に、経営から完全に離れて第二の人生を楽しみたい」

M&Aを検討するオーナー経営者とお話しすると、こうした売却後の希望が話題になることがあります。

会社を譲ること自体は決断できても、その後の自分の立場や働き方については、具体的に考えたことがないという方も少なくありません。長年、自分の時間や情熱を注いできた会社です。経営から離れた生活をすぐに思い描けないのも、自然なことだと思います。

しかし、M&Aは会社を売却して終わりではありません。経営者にとっては、会社の未来を次の経営者に託すと同時に、自分自身の人生を次の段階へ進める機会でもあります。

大切なのは、売却価格だけでM&Aの成功を判断しないことです。売却後にどのような生活を送りたいのか、会社とどのような関係を続けたいのか。こうした希望を整理しておくことが、納得できるM&Aにつながります。

1.M&A後の経営者には「残る」と「引退する」の選択肢がある

M&Aで会社を譲渡した後、オーナー経営者が必ずしもすぐに退任しなければならないわけではありません。一定期間、代表取締役や役員として経営に携わる方法もあれば、引継ぎを終えた段階で退任する方法もあります。

どちらが正解ということではありません。会社の状況や買い手の考え方、経営者本人の希望によって、適した選択は変わります。

たとえば、社長個人の営業力や取引先との信頼関係が会社の業績を支えている場合、売却直後に経営者がいなくなると、取引先や従業員が不安を感じる可能性があります。このような会社では、一定期間、現経営者が残って関係者への引継ぎを進めることに意味があります。

一方、後継者となる人材がすでに育っており、業務の仕組みも整っている会社なら、比較的早い段階で経営から離れることも考えられます。

ここで重要なのは、「買い手が自分に残ってほしいか」だけでなく、「自分は売却後にどう過ごしたいのか」を先に考えておくことです。

買い手の希望に合わせるだけでは、譲渡後も想定以上に長く会社に関わることになったり、反対に、思い入れのある会社から急に離れることに寂しさを感じたりするかもしれません。

2.売却後も会社に残るメリットと注意点

売却後も会社に残る大きなメリットは、事業の引継ぎを円滑に進めやすいことです。

中小企業では、経営者が長年の経験から得た知識や判断基準が、十分に文書化されていないことがあります。重要な取引先との付き合い方、仕入先との交渉、従業員それぞれの強み、過去に起きたトラブルへの対処法など、経営者の頭の中にしかない情報も珍しくありません。

こうした情報を新しい経営者に伝えるには、一定の時間が必要です。現経営者が残ることで、買い手は事業への理解を深めやすくなり、従業員や取引先も安心して新体制を受け入れやすくなります。

ただし、残ることには注意点もあります。

特に起こりやすいのが、経営権は譲ったのに、実質的には以前と同じように経営判断を続けてしまうという問題です。

新しい経営者が業務の進め方を変えようとしても、現オーナーが以前のやり方にこだわれば、社内に混乱が生じます。従業員も「最終的には前社長に相談すればよい」と考え、新しい経営者の方針が浸透しないことがあります。

これでは、買い手がM&Aによって実現したかった経営改善や成長戦略が進みません。

会社に残るのであれば、役割と期間を明確にしておくことが大切です。たとえば、最初の3か月は主要取引先への引継ぎ、次の3か月は業務のノウハウ共有を中心に行い、その後は相談役として必要な場合に協力する、といった形です。

もちろん、期間は会社の状況に応じて決める必要があります。重要なのは、退任時期を曖昧にせず、どのような状態になれば引継ぎが完了するのかを買い手と共有しておくことです。

3.綺麗に引退するメリットと、事前に準備したいこと

M&Aを機に経営から離れ、第二の人生を楽しむという選択肢もあります。

長年、会社の経営を担ってきた方にとって、休日でも仕事の電話が気になったり、資金繰りや従業員の問題を常に考えたりする生活が当たり前になっていることがあります。

引退によって、家族との時間を増やす、趣味に打ち込む、旅行を楽しむ、別の事業に挑戦するなど、これまで後回しにしてきたことに時間を使えるようになります。

ただ、いざ会社を譲渡してみると「毎日何をすればよいのかわからない」「会社に行かなくなると、人とのつながりが急に減った」と感じる方もいるかもしれません。

経営者という立場は、仕事だけでなく、日々の生活のリズムや人間関係にも深く結びついているからです。

そのため、引退を希望する場合は、売却後にやりたいことを少しずつ具体化しておくことをおすすめします。毎日をどのように過ごしたいのか、誰と時間を共有したいのか、仕事以外にどのような役割を持ちたいのか。こうしたことを考えておくだけでも、引退後の生活をイメージしやすくなります。

また、経済面の確認も欠かせません。M&Aによる譲渡対価が得られたとしても、その金額がそのまま自由に使える資金になるとは限りません。税金や取引にかかる費用、今後の生活費、住宅や家族に関する支出などを踏まえ、必要に応じて税理士などの専門家と資金計画を整理しておきましょう。

「いくらで売れるか」だけでなく、「売却後にどのような生活を送りたいか」から必要な資金を考える。 これも、納得できる引退を実現するための重要な準備です。

4.【事例】引継ぎ期間を決めたことで、安心して引退できた製造業の社長

ここで、考え方を理解するための仮想事例を紹介します。実在する企業の事例ではありません。

金属加工業を営むA社の社長は、60代後半になり、体力面や今後の事業継続に不安を感じていました。子どもは別の仕事に就いており、社内にも経営を全面的に任せられる後継者がいません。そこで、従業員の雇用と取引先との関係を守るため、M&Aを検討することにしました。

社長の希望は、会社を譲渡した後も長く経営を続けることではありませんでした。ただ、長年付き合ってきた取引先や、苦楽を共にしてきた従業員のことを考えると、すぐに会社を離れることにも不安がありました。

そこで、買い手との交渉では、売却後の引継ぎ期間を設けることを前提に話を進めました。

譲渡後の最初の数か月は、主要取引先への挨拶や取引経緯の説明、現場の責任者への業務引継ぎを実施。その後は、新しい経営体制のもとで日々の業務が回るよう、徐々に関与を減らしていく計画です。

社長は、引継ぎの完了時期と自分の役割を事前に確認できたことで、会社を離れることへの不安を少しずつ解消できました。

この事例で大切なのは、引退するかどうかを売却後に考えるのではなく、M&Aの交渉段階から売却後の役割を具体的に考えたことです。

引継ぎ期間を設けることは、単に買い手を助けるためだけではありません。売り手自身が気持ちの整理をつけ、安心して次の生活へ進むための準備にもなります。

5.M&Aの交渉で決めておきたい「売却後の条件」

売却後の働き方は、気持ちの問題だけではありません。買い手との交渉や契約条件にも関わる重要なテーマです。

まず確認したいのが、譲渡後の役職と役割です。代表取締役として残るのか、取締役として関与するのか、顧問・相談役のような立場になるのかによって、責任や意思決定への関わり方が変わります。肩書だけでなく、実際に何を担当するのかまで話し合っておきましょう。

次に、在籍期間や退任時期です。「しばらく残ってほしい」という曖昧な合意では、双方の認識がずれるおそれがあります。具体的な期間を設定するほか、引継ぎの進捗に応じて退任時期を見直す場合のルールも検討しておくと安心です。

報酬についても、譲渡対価とは別に確認が必要です。売却後も役員として勤務する場合の役員報酬や、顧問などとして協力する場合の報酬は、役割や契約形態に応じて整理します。税務・法務上の取り扱いも関係するため、専門家への確認が欠かせません。

さらに、個人保証や担保の取り扱いも忘れてはいけません。会社を譲渡したからといって、経営者個人の保証が自動的に外れるとは限りません。金融機関との調整や必要な手続きについて、誰がいつまでに対応するのかを確認し、実際に解除・変更が完了したことまで確かめることが重要です。中小企業庁も、中小M&Aにおける経営者保証の取り扱いを重要な留意点として示しています。https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html

これらの条件は、基本合意の段階から検討し、必要な事項を最終契約や関連する契約書に適切に反映させることが望まれます。口頭での約束だけに頼らず、双方が同じ認識を持てる状態にしておくことが、売却後のトラブル防止につながります。

6.ハッピーリタイアメントは、M&Aの準備段階から始まっている

M&Aを検討するとき、どうしても売却価格や買い手候補、成約までのスケジュールに意識が向きがちです。しかし、経営者本人にとって本当に大切なのは、会社を譲った後も含めて納得できる選択ができるかどうかではないでしょうか。

会社に残って次の経営者を支える道もあれば、一定期間の引継ぎを終えて、経営から完全に離れる道もあります。あるいは、退任後も必要なときだけ相談に応じるなど、その中間の形を選ぶこともできます。

どの道を選ぶにしても、会社の将来と自分の人生を切り離して考える必要はありません。経営者がどのように関わるかによって、引継ぎの進め方や買い手に求める条件も変わってくるからです。

まずは、「売却後も会社に残りたいのか」「いつ頃まで関わりたいのか」「引退後に何をしたいのか」という問いから考えてみてください。まだ具体的な答えが出ていなくても構いません。早い段階で自分の希望を整理しておけば、買い手との交渉で大切にしたい条件も見えてきます。

M&Aは、これまで築いてきた事業を次の経営者に託し、従業員や取引先の未来をつなぎながら、オーナー経営者自身も新しい人生へ踏み出すための選択肢です。

会社の未来に納得できること。そして、自分自身のこれからにも納得できること。 その両方を実現するための準備こそが、オーナー経営者にとっての「ハッピーリタイアメント」の設計図になるのです。

<代表取締役 日坂 登紀広(中小企業診断士)>


※弊社へのご相談はお電話もしくは問い合わせフォームよりご連絡ください。

RECOMMENDおすすめ記事