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M&Aと成長戦略:自社に合うのは「買収」か「提携」か?

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2025.04.15
  • コラム

M&Aと成長戦略:自社に合うのは「買収」か「提携」か?

 

1.はじめに ―企業成長のための選択肢としてのM&Aと提携

 企業が中長期的に競争優位を維持・強化していくためには、継続的な成長戦略の実行が不可欠であり、その手段は多岐にわたります。中でも近年注目されているのが、M&AMergers and Acquisitions:合併・買収)や提携(アライアンス)といった、外部資源の活用を通じた「非連続な成長」です。

しかし、企業によっては「買収」か「提携」か、どちらのアプローチが適切なのか、判断が難しい局面も多く見受けられます。本稿では、両者のメリット・デメリットや戦略的な位置づけ、判断基準を整理しながら、自社にとって最適な成長手段を選択するための視点を提供します。

 

 

2.「買収(M&A)」とは支配権を獲得する戦略

▷ 定義と基本構造

買収とは、対象企業の議決権の過半数(または支配権)を取得し、経営権を握る手法を指します。一般的には株式取得による支配が主流で、対象の企業・事業を自社グループに取り込むことが目的となります。

▷ 主なメリット

  1. 迅速な事業統合と成果創出(スピード)
    自社でゼロから事業を構築するよりも短期間で新市場や新技術へアクセスできる。

  2. シナジー効果の最大化
    販路統合、製造効率化、開発リソースの共有などを通じた経済効果が期待できる。

  3. 意思決定の一元化
    経営権を取得するため、自社戦略に基づいた統合や再編が可能。

  4. 人材・ブランド・知的財産の包括取得
    属人的なノウハウや組織能力をそのまま承継できる。

▷ 主なデメリット

  1. 買収コストの大きさ(初期投資)
    プレミアム付きの価格で買収する場合、資金調達面の負荷が大きくなる。

  2. PMI(統合作業)の困難さ
    組織文化やシステム、ガバナンスの違いが障壁となる場合が多い。

  3. 簿外債務やレピュテーションリスクの引継ぎ
    デューデリジェンスの精度が問われる領域。

 

 

3. 「提携(アライアンス)」とは ― 共創型の戦略的協力関係

▷ 定義と基本構造

提携とは、資本の過半を取得せずに、対等または限定的な協業関係を構築する手法です。合弁会社(ジョイントベンチャー)、業務提携、技術提携、販売提携、OEM供給など、さまざまな形態があります。

▷ 主なメリット

  1. リスクの分散と低コスト実行
    資本投下を抑えながら、新分野や新市場への進出が可能。

  2. 柔軟性とスピードの両立
    フルスケールの統合をせずに、必要な領域での協力を速やかに開始できる。

  3. 学習機会・ケイパビリティの獲得
    相手企業のノウハウにアクセスし、自社内に吸収・内製化することが可能。

  4. 長期関係の布石となる
    初期の提携が将来的なM&Aに繋がることも少なくない。

▷ 主なデメリット

  1. 戦略的な主導権を握りにくい
    対等関係にあるため、意思決定が遅くなる場合も。

  2. 成果の不確実性と制限的な活用
    情報開示や技術共有に制限がかかることが多い。

  3. 競合化リスクの存在
    協業先が将来的に競合プレイヤーに転じる可能性。

 

 

4. 「買収」か「提携」かを判断するための5つの観点

(1)目的の明確性

(2)リソースと時間軸の制約

  • 資金や人材が十分で、迅速な展開が求められる場合 → 買収

  • 投資回収の見通しが不透明で段階的に関与したい → 提携

(3)相手との関係性・文化的適合性

  • 組織文化や意思決定プロセスの融合可能性を評価。

  • 特にPMIが難しいと見られる場合は、段階的連携から始めるのが合理的。

(4)競争優位性の確保

  • 市場におけるポジショニングを明確に確保したい → 買収

  • 柔軟な連携で複数のパートナーと関係を構築したい → 提携

(5)将来的な選択肢のオプション価値

  • 提携は、M&Aへの“ステップ”としても機能。

  • オプション戦略として「まずは提携、後に買収」も有効。

 

 

5. ケーススタディ:戦略的観点からの実例

◾ 買収を選んだケース:GoogleによるYouTubeの買収(2006年)

  • 目的:動画共有プラットフォームという新たなメディア領域への即時参入

  • 買収後、Googleの検索技術・広告ネットワークと融合し、事業拡大に成功

  • 提携では技術統合や意思決定の迅速性が得られなかった可能性

◾ 提携を選んだケース:トヨタとマツダの資本業務提携(2017年)

  • 相互の技術補完(EV・HV・生産技術)と、持続的成長のための協業

  • フルM&Aではなく少数持株にとどめたことで、両社の独立性と柔軟性を維持

◾ 提携から買収へ:楽天による日本郵便との協業 → 楽天モバイルへの出資 → 本格的な資本提携

  • 共同物流網の構築を起点に、両社のシナジー深化を図りつつ段階的に関係強化

  • 結果的に中長期の提携から戦略的買収の布石に発展

 

 

6. 経営陣・実務担当者が持つべき視点

  1. 成長戦略との整合性

    自社の中長期ビジョンと外部連携の位置づけを明確に

  2. 関係構築能力

    買収の場合はPMIの実行力、提携の場合は信頼構築と合意形成力がカギ

  3. シナリオプランニング

    買収失敗時、提携解消時の代替策を検討し、柔軟に構える

  4. “買わない勇気”と“待つ力”

    適切なタイミングが来るまで無理なM&Aを控え、提携で布石を打つという戦略も必要

 

 

7. まとめ ― 「M&Aか提携か」ではなく「戦略の目的は何か」

 買収も提携も、それ自体が目的ではなく、「いかに持続的な競争優位を築くか」という戦略の一手段です。重要なのは、“今の自社にとってどの手段が最適か”を冷静かつ論理的に判断する視座です。

 将来的な市場の変化、テクノロジーの進化、人材の確保、顧客ニーズの変容といった多くの不確実性を踏まえつつ、買収と提携を二項対立でなく連続線上の選択肢と捉えることが、これからの成長戦略には求められます。

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