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事業承継型M&Aの成功と失敗の分かれ目 ―企業の“第二の人生”を託す選択の要諦とは―

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2025.05.27
  • コラム

事業承継型M&Aの成功と失敗の分かれ目

―企業の“第二の人生”を託す選択の要諦とは―

【はじめに】なぜ今「事業承継型M&A」なのか

 日本では、少子高齢化と経営者の高齢化が進む中で、後継者不在による廃業リスクが深刻な社会課題となっています。中小企業庁のデータによれば、今後10年間で70歳を超える中小企業経営者のうち、約半数が後継者未定とされています。こうした状況の中、事業承継の手段として注目されているのが「事業承継型M&A」です。

 従来の親族内承継や従業員承継ではなく、第三者である外部企業や投資家への引き継ぎによって、事業の存続・発展を図るM&A手法は、引退を考える経営者にとって現実的かつ有力な選択肢となりつつあります。

 しかしながら、事業承継型M&Aは必ずしも成功するとは限りません。会社や従業員、顧客、取引先に大きな影響を与える決断だけに、その成否を分ける要因は多岐にわたります。本稿では、数多くの成功・失敗事例をもとに、「事業承継型M&A」の分かれ目となるポイントを徹底的に掘り下げます。

【第1章】事業承継型M&Aの特徴と目的

1. 通常のM&Aと異なる“承継性”という文脈

 一般的なM&Aは、成長戦略や業務シナジーを目的とするのに対し、事業承継型M&Aは、経営者の引退や後継者問題の解消が動機となります。このため、単なる「株式譲渡」ではなく、「理念の継承」「従業員の安心」「取引先との信頼関係維持」といった、“企業文化のソフトランディング”が成功のカギを握ります。

2. 経営者個人に根ざした企業構造

 中小企業では、経営者の属人的な力で経営が成り立っているケースが少なくありません。こうした場合、経営者が退くことで組織力が低下したり、取引先との関係が揺らいだりすることが多く、M&Aの成否に直結します。

【第2章】成功のためのキーファクター

1. 後継先(買い手)との“思想的マッチング”

 事業承継型M&Aで最も重要なのは、「誰に引き継ぐか」です。価格や条件よりも、以下の点が合致しているかが成否を分けます。

経営理念や価値観が近い
地域貢献や社員重視の姿勢が一致
長期的に事業を育てる意志がある

 売却後、経営方針や人事制度が大きく変わると、従業員の離職や社内の混乱を招くことがあります。買い手選定の段階で、表層的な条件だけでなく、“人間としての相性”まで見極めるべきです。

2. 従業員・取引先への誠実な説明

 従業員や取引先への情報開示のタイミングと内容は、非常に繊細です。事前に伝えすぎれば不安を招き、伝えなければ不信感を生みます。成功企業に共通するのは、「最終契約直前〜クロージング前後に段階的に説明を行い、不安を一つひとつ解消するプロセス」を丁寧に設計している点です。

3. “段階的な引き継ぎ”の設計

 経営者がクロージングを境に完全に退いてしまうと、買い手側の理解が追いつかず、混乱が生じやすくなります。数ヶ月〜1年程度、前経営者が顧問などとして残り、買い手と共同で“経営バトン”を引き継ぐプロセスが理想です。

【第3章】失敗につながる典型的な落とし穴

1. 買い手の選定を急ぎすぎた

 「体力的に限界」「年内にやめたい」などの事情で、十分な比較検討を行わず買い手を決めてしまい、理念不一致や統合失敗につながるケースは少なくありません。

2. 従業員・関係者への説明不足

 M&Aの発表と同時に社員が辞めてしまったり、主要取引先が離反して業績が悪化するケースもあります。こうした場合、買い手側は当初のシナリオ通りに事業を運営できず、経営難に陥ることも。

3. “売却後の生活”の準備不足

 意外に多いのが、前経営者が「M&A後の喪失感」に悩むケースです。会社は売れたが、人生の目標が失われ、心理的な空洞が生じる。この精神的な不安定さが、買い手との関係悪化や従業員との混乱につながる場合もあります。

【第4章】事業承継型M&Aを成功に導くための実務ポイント

1. 初期段階から専門家を巻き込む

 M&Aアドバイザー、公認会計士、弁護士などを早期に巻き込むことで、希望条件の明確化や相手先の適切なスクリーニングが可能になります。特に地方の中小企業では、地域に根差した専門家との連携がカギとなります。

2. デューデリジェンス前の“自社棚卸し”

財務内容の整備(不要資産の処理、債務の明確化)
契約書・許認可の見直し
人事制度・就業規則の整理

 こうした社内の準備を怠ると、買い手にネガティブな印象を与え、価格交渉や統合後のトラブルにつながります。

3. クロージング後の統合支援を意識する

 PMI(Post Merger Integration)は大企業に限った話ではなく、中小企業M&Aにおいても不可欠です。理念の継承、業務プロセスの整合、従業員の不安解消などを目的に、計画的な統合戦略を買い手と協働で進めましょう。

【まとめ】事業承継型M&Aは“未来の経営”を選ぶこと

 事業承継型M&Aは、単なる「事業の売却」ではありません。それは、これまで築いてきた会社の価値、従業員の雇用、地域との信頼関係などを、未来にどう引き継ぐかという“経営の哲学的選択”です。

 成功に導くには、焦らず、ブレずに、「誰に、何を、どう引き継ぐのか」という本質的な問いと向き合うことが不可欠です。そのためには、信頼できる専門家とともに時間をかけて準備を進め、最もふさわしい“新しい担い手”と出会う努力が求められます。

 会社は経営者のものであると同時に、社員、顧客、地域社会のものでもあります。事業承継型M&Aは、すべての関係者にとって納得できる「未来設計」の手段であるべきなのです。

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